『孤高の人(3,4)』

孤高の人 3 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 3 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 4 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 4 (ヤングジャンプコミックス)

山に魅せられた少年・森文太郎。
設立されたばかりのクライミング部は文太郎の危険行為をマスコミにより激しく非難され無期限の活動停止を言い渡されてしまう。
校内での陰口にネット上での誹謗中傷、徐々にバラバラになっていく部員達。
そんな折、文太郎の元に非難記事を書いた記者・黒沢が現れ文太郎を新たな山・八ヶ岳へと誘う。
未体験の雪山は文太郎に非情な現実を突きつける。



 三巻。
山は楽しいだけの世界ではないということが描かれる。
そこでは些細な油断で人が死んでいく。
自身の無思慮な行いで自分以外の誰かが死んでしまう。
どれだけ長いこと山に関わっていてもアッサリと。
そんなわけで結構ショッキングな展開が待っている三巻。
いきなりすぎるだろと思ったものの、散々独りでいることの危険を説く以上は実際の”危険”を体感する必要があったんだろう。
全然甘くない、この話。



 四巻、時間は流れて人も変わるというけれど、相変わらず人と関われないままの主人公。
それでも大西に対する思いからして全てを拒絶しているわけではない様子。
そんな主人公が戦うのは”女”という名の煩悩。
人間関係を拒絶する事と、性欲を拒絶する事ってのはまた違うこと。
しかしそういう煩悩をこの主人公はこれまで一切持ち合わせていなかったのだろうか?
まぁ、あの部屋を見るにエロ本一冊すら見つからないんだろうけど。
最後の見開き、あんなもんどうやって振り払うんだと考えるだけでゲッソリしちまうね。
 ハチワンダイバーの二こ神さんの言葉が思い出す。
『女だけは必死で積み上げてきたものの隣に一秒で座る』

 『愚か者死すべし』

愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)

愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)

晦日、私立探偵・沢崎の元にかつてのパートナー渡辺を訪ねて一人の少女が訪れる。
かつて渡辺に救われた彼女の父親が何者かを庇って銀行襲撃事件の犯人として自首をしたという。
男が移送されると聞き、少女と共に急ぎ警察署へと向かった沢崎は、男を射殺しようとする男達と遭遇してしまう。
望まぬ形で事件に巻き込まれた沢崎は真相究明に動き出す。



 沢崎はこの時点で50代前半ってところだろうか。
携帯電話も登場し時代の移り変わりをヒシヒシ感じるね。
それにしても探偵……携帯電話を使えないというのでは問題なんじゃないのか――と読みながら思ったけど、別に一匹狼なんだから困るって事もないのか。
例のサービスも継続して利用してるみたいだし。


 事件そのものはちょっと突飛になったかなという印象。
そのせいなのか、雰囲気が少しだけ浅い。
それにしても、一般人が絡んでいく話ではどうしても影のフィクサーって奴は違和感を孕まずにはいられないな。

 『孤高の人(1,2)』

孤高の人 1 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 1 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 2 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 2 (ヤングジャンプコミックス)

人との関わりを絶ち生きることを切望する少年・森文太郎。
転入した高校でふとした切っ掛けからフリークライミングの世界と関わりを持った森は次第に山の魅力に惹かれていく。
自身の命も省みず山へと向かう森を止めようとする教師・大西、才能の片鱗を見せる森に対抗心燃やす同級生・宮本。
そんな彼を取り巻く人の思いを余所に、森はただひたすらに独りきりの世界を求め続ける。



 一度だけ人に誘われて無料体験という形でやったことがある。
一巻の用語解説にあるインドアウォールってやつ。
最初はジャングルジムに近い感覚だったけど段々とそんな余裕はなくなり、1時間もやった頃には腕が重く怠くなりギブアップ。
なんとなくその辺の壁にへばり付くっていうのとは全く違うなと思いながらそれっきり。
そんな浅い記憶を元に、クライミングっていうのは人工の壁を上るものなんだろうなと思っていたんだけど、このマンガを読むとどうも違うみたいだった。


 そもそも俺は岩壁ってものを見たことがあんまり無い。
あんまりっていうか、目の前に立ってそれを見上げた事なんてたぶん一回もないんじゃないだろうか。
まず本格的に山に行った事がないし。
ふと気が付けば世界は見知らぬ物ばかりだなと気が付く。


 全然関係ないけどダムも見たことないなぁ。

 『さらば長き眠り』

さらば長き眠り (ハヤカワ文庫JA)

さらば長き眠り (ハヤカワ文庫JA)

400日もの間事務所を離れ、疲れ果てた躰で帰り着いた私立探偵の沢崎を待ち受けていたのは、薄汚れた身なりの浮浪者だった。
浮浪者の口から語られた自分を探していたという男を捜索することとなった沢崎だったが、肝心の男は何者かに襲われ瀕死の重傷を負ってしまう。
重傷の男から依頼を引受けた沢崎は、11年前に起こった女性の投身自殺事件の調査を開始する。



 冒頭、いきなり一年以上も事務所を空けていたという所から入っていくのだが、ここから中盤、依頼人を得るところまでの沢崎の言動が不景気に喘ぐ中年のおっさんのようで面白い。
仕事のなさに困り、挨拶回りしてみたり、ビラ打ちを考えるところとか、すごく切実だ。


 後半、事件のピースが集まり始め徐々に形を成していく際の爽快感。
そして驚愕の展開。
いやしかし、えぇ……あの状況で読者に読めるのか、それ?
人間、最後の最後は体感。


 もう一方で幕が下ろされた物語が一つ。

 『天使たちの探偵』

天使たちの探偵 (ハヤカワ文庫JA)

天使たちの探偵 (ハヤカワ文庫JA)

雨の降りしきるある日、私立探偵・沢崎の元を一人の少年が訪れる。
あまりにも年若い依頼者に尻込みする沢崎だったが、なし崩し的に依頼を引き受けることとなってしまうのだった。
少年の依頼はとある女性のボディーガードだったのだが、事態は沢崎の思惑を外れ思いも掛けない事態へと発展していく。
私立探偵沢崎が活躍する6篇を収めた短編集。



 全体通してなんだけど、あんまり印象が残らない。
かといって面白くないわけではなく、読んでる最中は夢中なんだよね。


 以下、各話感想。
・第一話『少年の見た男』
 ラストシーンの居心地の悪さが印象に残る。


・第二話『子供を失った男』
 P.100の沢崎の台詞が印象に残る。
どんな状況でも誰のことも甘やかさないのな。


・第三話『二四〇室の男』
 しょうもない男だなぁとか、そんなん。


・第四話『イニシアル”M”の男』
 うーん、そりゃ毎回毎回大事件じゃ困るけども……みたいな感じ。


・第五話『歩道橋の男』
 ”魔が差した”瞬間は誰にでもあるだろう。
信号無視して歩道を渡ることだって本当はそうかもしれないけれど、目を逸らしているとわからなくなっていく。
それにしても、そんな瞬間が次から次へとやってきたらどっかで折れてしまいたくなりそうだ。
良い悪いじゃなくてね。


・第六話『選ばれる男』
 活動範囲広いなぁとか。

 『うさぎドロップ(5)』

うさぎドロップ 5 (5) (Feelコミックス)

うさぎドロップ 5 (5) (Feelコミックス)

 前巻ラストシーンより10年後。
作中とはいえ、随分時間が進んだのだなぁ。
6歳の女の子が16歳の高校生になっていて、それはもうなんつーか、児童との関わりではないよね。
小学生ならいざ知らず、中高生という年代に対しての親の関わり方というのは、ある程度手を離してあげるか、間合いを読まずに踏み込むかという事以外にないような気もする。
”子育て”という切り口は子どもの成長を”見守る”というのに変化していって、干渉(せわ)する必要性っていうのはあんまりないのかもしれないな。
ここからは男親、女親という見方に広がるのかも知れないけれど、ここに登場する子ども達はそれをある程度経験し終えているというか、大体のことに見通しを立てているようなのでそういうのも難しそうだね。
まぁ、子どもと一言で言っても幅広いなとかそんな事をボンヤリと思いつつ読んでおりました。


 ところで、娘さんの成長も大事だけど、おっさんにもちょっと幸せになってもらいたい。
第一部を読んでいたところではこの話の焦点となっていたのは大吉の方で、子育ての難しさに悩むと言うところが面白かったのだけど、今回からは頑張って働くお父さんみたいになっており、なんか本当に、端役みたいになってて寂しいかぎり。(最後は良かったけどもね……その後進展無しっぽい)
などと男読者はチラリと思う。


 もっぺん読み返してみて、これは子育ての話でも恋愛の話でもなくて、家族を作る……か、家族になっていくってのを書いてるのかなとか。
家族って言葉で一括りにしなくても、人と人の関わりの一つのスタイルの提示みたいな。

 『私が殺した少女』

私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)

私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)

初夏、探偵事務所を営む沢崎の元に失踪人の調査依頼を告げる電話が鳴る。
依頼者からの呼び出しに応じその邸宅へと向かった沢崎を待っていたのは身に覚えのない児童誘拐犯の疑いだった。
何者かにハメられ誘拐事件に巻き込まれた沢崎は、被害者家族からの依頼を受け身代金の輸送役を引き受けることとなるのだが……。



 面白く、一度読み始めたらなかなか抜け出せない。
相変わらずの台詞回しに、深み豊かな登場人物達、どっぷり浸かっているとなんとなく自分も渋く思えるから不思議だ。
勘違いだけど。
事件の真相は酷たらしく後味が悪いはずなのに何故かそんなに不快でもなく、紙飛行機がいつかどこかに落ちるように、ただ落ちたようなそんな感じ。


 前作から二年後くらいの設定なのか、沢崎が少しだけ人としての弱味を見せているのが印象的。
さぁ、続いて天使達の探偵へ。