『白夜行』

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

オイルショック直前の大阪。
廃ビルの一室で男の刺殺体が発見される。
それは以降、長年続く犯罪の幕開けだった。



なんか虚しさで食傷気味。
幻夜」から読み始めたおかげで、何も知らずに読むのとは随分印象が変わったはず。
震災前の女の道筋を辿る回顧録のような物語になってしまった。
実際、過去でもやってる事そのものは変わらないけど。
ただ男の方は付き合い方が随分違ったかもしれないなとは思う。
利用されているというのでもなく、尽くしているという印象もない。
ただ自分を無機質な存在に貶めているようには感じられた。
これは彼と彼女の関わりが一切描かれていないせいなのかもしれない。
真逆の書き方をされている「幻夜」と比べると興味深い。


幻夜」が今作で描かれなかった二人の関係と心理に焦点を当てたものだとしたら、こっちは事実の描写だ。
順番としては「白夜行」から読んだ方が面白いと思うが、逆から読むのも面白いのではないかと思う。
白夜行」を読み終えた後にもう一度「幻夜」に目を通す楽しみが増えるから。(500pは長いけど)
幻夜」と併せて悪女の立身出世物語として読んでも面白い。
読後の虚しさに溜息を付くくらいなら、むしろそう読んだ方が楽しめるんじゃないかと思う。


ところで、彼が最後に大阪に行った理由がわからない。
彼女の上昇志向はなんとなく理解できるんだが、彼が何を求めていたのかはサッパリわからん。
生まれ育った下町が特別な感慨を持つ場所なのであって、都市部そのものは違うんじゃないのか?


・補足
この物語は『風と共に去りぬ』だ。
白夜行」から「幻夜」までの間に彼女がどのような人生を歩んだかは不明だが、事業が失敗したというからには離婚もしたのだろうし、逃げ出した先の外国で整形したかもしれない。
とにかくその結果、彼女は共犯の重要性に思い至ったに違いない。
人を陥れて上り詰めるには彼女一人では無理だった。
実行犯がいないから。
犯罪の片棒を担ぐ存在に愛情を持ったかどうかは知らないが、必要性を感じたのは間違いない。
その結果が「幻夜」。
返り咲くために彼女は第二の”彼”を用意し、再び犯罪に手を染めていく。